野生型の配列に対し、1箇所だけアミノ酸の変異が入ったタンパク質が混同した状態で存在する場合、この変異の入ったタンパク質だけを見分けるような抗体が必要な場合があります。
変異の入ったタンパク質を抗原にして、多数のモノクローナル抗体をとり、その中から、変異の入ったタンパク質のみに結合する抗体をセレクションしてくることは多大な労力が必要になります。そのため、抗体職人では、最初から変異の入った部分だけにターゲットを絞り、野生型には結合せず、変異型にのみ結合する抗体をセレクションしていきます。
具体的には、抗原として、変異が入っている配列部分のペプチドを合成したものを用い、ファージディスプレイによるパニングと、ELISAスクリーニングを経て、野生型には陰性で、1箇所のアミノ酸変異が入ったペプチドに陽性のクローンを選択していきます。各工程について、以下にご紹介します。
1.ペプチド抗原の設計とカップリング
抗体職人は、すべて in vitro でセレクションを行うため、抗原を固定する必要があります。抗原として、以下のように設計し、カップリングを行います。
◆抗原ペプチドの配列
変異が入っている部分が中心付近となるような、15~20アミノ酸のペプチド
◆陰性対照抗原ペプチド配列
野生型の配列で、抗原ペプチドと同じ領域のペプチド
◆カップリング
ペプチド抗原のN末端あるいはC末端にシステインを付加し、異なる2種類のキャリアタンパク質とコンジュゲートを作成
・BSA + Cys + ペプチドN末端
・ペプチドC末端 + Cys + ヒトトランスフェリン (Trf)
※これらを抗原として用いることで、ペプチドの末端を認識する抗体とキャリアタンパク質を認識する抗体を除くことができます。
2.パニング
陰性対照抗原ペプチド(図中のCRA)でブロッキングしながら、抗体提示ファージライブラリ(HuCAL PLATINUM)から、抗原ペプチドに結合する抗体を選択します。抗原ペプチドへの反応 → 反応しないファージの洗浄 → 反応したファージの回収と増幅を3回繰り返します。
3.ELISAスクリーニング
クローン化した大腸菌のLysateを用いて、以下のプレートでELISAを行い、プレート1と2でELISA陽性(ELISAシグナルがプレート3と4に対して3倍以上)となるクローンをスクリーニングします。プレートの1と2の両方に陽性となるクローンを選択することで、キャリアタンパク質特異的に結合する抗体は除かれます。
- プレート1:抗原ペプチド-BSA
- プレート2:抗原ペプチド-Trf
- プレート3:陰性対照抗原ペプチド-BSA
- プレート4:陰性対照抗原ペプチド-Trf
4.シーケンシング
ELISAスクリーニングで陽性となった抗体クローンは、クローンに重複がある可能性があるため、ランダムに選択したクローンのシーケンシングを行いクローンに重複がないようにします。
5.候補抗体の選定
配列に重複がないクローンを選び、Fabは組換え体タンパク質として、大腸菌で発現させ精製します。精製したFabを用いて、抗原ペプチドにELISA陽性で陰性対照抗原ペプチドに陰性となるクローンを選定します(5つまで)。下記の結果の場合、変異入りペプチドでBSAとTrfの両方のコンジュゲートに陽性で、野生型配列のペプチドに陰性である、Antibody 1とAntibody 2が候補抗体となります。