活性を阻害する抗体の取得例

活性を阻害する抗体が、動物免疫では得ることができずに、ファージディスプレイ法を用いた方法「抗体職人」で獲得できた事例を、オートタキシン(ATX)のケースでご紹介します。 動物免疫で活性を阻害する抗体が得られなかった原因として、オートタキシン(ATX)が種間での保存性が高いことによる、触媒活性部位をターゲットにした阻害抗体の確立が困難だったことが考えられました。そこで、抗体職人では、あえて、ヒトとマウスの両方のオートタキシン(ATX)に認識される抗体をセレクションし、その中から、活性を阻害する抗体を選定する戦略を立てました。

1.オートタキシンとは

オートタキシン(ATX) は、リン脂質代謝酵素であり、リゾホスファチジルコリン(LPC)を分解して、リゾホスファチジン酸(LPA)を産生します。 リゾホスファチジン酸(以下LPA)は、リン酸-グリセロール-脂肪酸という極めて単純な構造をもつリン脂質ですが、細胞増殖、血小板凝集効果、平滑筋収縮効果、がんの浸潤促進効果など非常に多岐にわたる薬理的作用を持っています。

2.オートタキシンの構造

オートタキシン(ATX)は、ヒト、マウス、ラット由来のアミノ酸配列を比較してもわかるように、種間での保存性が非常に高いのが特徴です。そのため、マウスなどを用いて抗体を作製した場合、哺乳類間で相同性が高い分子に対する抗体の取得は、困難なことが予想されました。

3.戦略的スクリーニング

ファージディスプレイ法は、全てのセレクションを in vitro で行う、動物に依存しない抗体産生技術であるため、免疫寛容とは無関係にヒトやマウスの抗原に対する抗体の作製が可能です。さらに、動物免疫で必要な抗原提示の段階がないために、天然の立体構造を認識する抗体の作製も可能です。

これらの特徴を利用して、ヒトとマウス間で相同性の高いオートタキシン(ATX)の活性を阻害する抗体を獲得するために、まず、ヒトおよびマウスのどちらの由来のオートタキシン(ATX)にも結合する抗体をセレクションしました。次に、オートタキシン(ATX)の酵素活性を阻害する抗体をセレクションしました。

3-1.パニング

約450億パターンからなる抗体のライブラリから、ヒト由来のオートタキシン(ATX)に結合するファージの回収を行い、次に、マウス由来のオートタキシン(ATX)に結合するファージの回収を行い、最後に、再度ヒト由来のオートタキシン(ATX)に結合するファージを回収します。こうして、ヒト由来およびマウス由来のどちらのオートタキシン(ATX)にも親和性のあるファージを選択します。

3-2.ELSIAスクリーニング

パニングで回収されたファージを大腸菌に感染させ、ヒト由来およびマウス由来のどちらのオートタキシン(ATX)にも結合した抗体の配列を、発現ベクターへサブクローニングして、抗体遺伝子を大腸菌で発現させました。その大腸菌のライセートや精製抗体を用いて、抗原であるヒト由来のオートタキシン(ATX)と、マウス由来のオートタキシン(ATX)に対しそれぞれELISAを行いました。

その結果、ヒト由来のオートタキシン(ATX)と、マウス由来のオートタキシン(ATX)の両方に対して、陽性だったクローンが100クローン得られました。 このうち、配列がユニークなのは、90クローンでした。

3-3.酵素活性阻害スクリーニング

ELISAスクリーニングで得られた陽性クローンの内、56クローンについて、酵素阻害活性を測定しました。その結果、26クローンが酵素活性阻害を示しました。

4.抗体を用いた活性測定

酵素活性阻害スクリーニングで、活性阻害を示したクローンの内、5クローンについて、抗体の濃度をふって酵素活性を測定しました。その結果、ヒト由来およびマウス由来のどちらのオートタキシン(ATX)についても、濃度依存的に活性を阻害する抗体が得られていることを確認しました。

5.まとめ

ヒトとマウスなど、哺乳類間で高い相同性をもつタンパク質を抗原とした場合、動物免疫では難しい抗体でも、ファージディスプレイ法を用いると抗体を得ることができました。今回は、触媒ポケット部分あたるアミノ酸配列が、ヒトとマウス間で相同性が高いことを利用し、戦略的に、ヒトとマウス由来の両方の抗原を認識する抗体をスクリーニングすることで、活性を阻害する抗体を得ることができました。

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Koutai Shokunin
抗体職人