末端の違いを見分ける抗体のセレクション

タンパク質がプロセシングを受けるなどして複数の断片に分かれ、それぞれの断片を認識する抗体を作製する場合には、それらのほとんどの部分が同じ配列を持つことから、抗原の設定がとても重要になります。

抗体職人は、動物免疫を用いずにすべてのセレクションを in vitro で行うため、抗原提示のためのタンパク質の断片化などの工程がなく、ペプチドやタンパク質を調製したままの状態で結合反応を行わせることができます。そのため、配列を絞り込むなど、細かな抗原の設計が可能となります。 今回は、あるタンパク質のプロテアーゼによる切断前と切断後の断片を見分ける抗体を作製する場合の抗原設定とセレクション方法をご紹介します。

1.抗体の特異性

プロテアーゼにより切断される前のタンパク質、あるいは、切断後のタンパク質を見分ける抗体を作製する場合、見分けたい場所により、設定する抗原が異なります。

プロテアーゼによる切断前のタンパク質のみを見分ける抗体を作製する場合は、切断後になくなってしまう部分をターゲットにします。

プロテアーゼによる切断後のタンパク質のみを見分ける抗体を作製する場合は、切断後に残る部分がターゲットになりますが、そのほとんどが切断前のタンパク質にも含まれることから、狙うポイントは、切断後タンパク質のN末端の端の部分のみになります。そのため、このような抗体の作製は難易度が高くなります。

2.抗原の設計

見分けたいタンパク質側を抗原とします。一方、認識してほしくないタンパク質側を陰性対照(図中 CRA と表記)とします。抗原としては、タンパク質とペプチドのいずれも抗原として用いることができます。それぞれに必要な要件は、タンパク質の場合、80%以上の純度で1mg(50 μg/mL以上)、ペプチドの場合は、水溶性で、90%以上の純度で5mgになります。

タンパク質とペプチドの抗原は、組み合わせてセレクションを行うこともできるので、配列や実際に抗体を使用する環境の抗原の状態と近くなるように、個別に設計していきます。

3.スクリーニング方法

はじめに、パニングで、抗体を提示しているファージライブラリ(450億パターンを人工的に合成)から、抗原に結合するファージを選択していきます。 次に、パニングで得られたファージの抗体遺伝子を大腸菌で発現させ、得られた抗体クローンと抗原の反応性をELISAで確認します。

3-1.パニング

抗原を固定し、陰性対照(CRA)でブロッキングしながら、抗原への反応 → 反応しないファージの洗浄 → 反応したファージの回収と増殖(1ラウンド)を3ラウンド繰り返します。

3-2.ELISAスクリーニング

抗原と陰性対照(CRA)をそれぞれ固定したプレートを用いてELISAを行い、プレート1では陽性、プレート2で陰性のクローンを選定します。

  • プレート1:抗原を固定
  • プレート2:CRAを固定

4.タンパク抗原とペプチド抗原

4-1.どちらを選択すればいいのか?

タンパク質抗原は、たとえば、抗原のいろいろな部位を認識する抗体が必要なサンドイッチELISAに使用するなど、ひとつの抗原に対してできるだけ多くの抗体がほしい場合に向いています。

また、プロセシングにより末端の構造が変化する場合にも、タンパク質抗原を用いると立体構造を認識する抗体が得られます。

一方、ペプチド抗原は、リン酸化の有無を見分けるような僅かな違いを見分ける抗体が必要な場合に、修飾がないペプチドを陰性対照抗原に設定し、修飾のあるペプチドと差し引きでセレクションを行います。このような僅かな差異の場合、抗原の純度がとても重要になるため、修飾周辺の配列をペプチド合成し純度の高い抗原を用いてセレクションを行います。

同様に、分子量が近いなどの理由で、抗原に陰性対照となるタンパク質が混入してしまう等、純度の高いタンパク抗原が調製できない場合も、ペプチドを抗原として用います。

4-2.セレクションの工夫

パニングでは、抗原とファージの結合を3ラウンド繰り返すため、1ラウンドと3ラウンドをペプチド抗原とし、2ラウンドにタンパク抗原を挟むことも可能です。たとえば、タンパク質の特定の部分を認識してほしい抗体が必要な場合、ペプチドを抗原として領域を絞り込み、タンパク質の状態でも結合できる抗体を選択していくという方法で抗体をセレクションしていきます。

また、抗原と陰性対照の配列がほとんど重なっている場合、陰性対照でブロックしながらパニングを行うと、選択圧が高すぎてクローンがとれてこないことがあります。このような場合は、抗原のみでパニングを行い、できるだけ抗原に結合するクローンを確保した上で、スクリーニングELSIAの段階で、陰性対照との交差性を確認しながらセレクションする方法があります。

5.まとめ

末端の違いを見分ける抗体を作製する場合、次のポイントに注目し、抗原の設定とセレクションの方法を決めていきます。

  1. 陰性対照との違いがどの程度なのか
  2. 配列はほぼ同じでも構造が変化が起きているのかどうか
  3. 高純度の抗原が用意できるかどうか

ご希望の抗体が作製可能かどうか、まずは、お気軽にご相談ください。

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Koutai Shokunin
抗体職人