タンパク質合成とシャペロンの効果について

試験管内で合成したタンパク質が凝集し不溶化してしまうことは、しばしばみられる現象です。このような場合、細胞内と同様に、シャペロンが介在することで、可溶化できることがあります。

ここでは、PUREfrex® にシャペロンを添加した効果についてまとめています。合成したタンパク質に凝集がみられる場合、参考にしてみてください。

1.DnaK Mix(Hsp70)の効果

DnaK は大腸菌の Hsp70 で、新生タンパク質の構造形成や、タンパク質の品質管理に関与していることが知られています。DnaK は ATPase であり、DnaJ、GrpE と協調して働きます。DnaJ は、DnaK の ATP 加水分解反応を促進し、タンパク質の疎水領域への結合活性も有しています。GrpE は、DnaK 上の ADP/ATP 交換反応を促進します。DnaK Mix(#PF003)は、高度に精製した大腸菌由来の DnaK、DnaJ、GrpE を適切な濃度比であらかじめ混合した溶液です。

1-1.タンパク質合成時に添加

ヒト癌遺伝子 HER2/neu(c-erbB-2)の遺伝子産物である HER2 蛋白に特異的に結合するモノクローナル抗体であるトラスツズマブ(Trastuzumab;商標名 Herceptin )の H 鎖と L 鎖をそれぞれ鋳型 DNA として、最適な濃度比で反応液に添加して合成しました。その結果、シャペロンを添加した方が、IgG の Y 字構造を形成する効率が高く、特に DnaK Mix が最も高い効果を示していました。詳細は、こちらのポスターをご覧ください。
”再構成型無細胞タンパク質合成システムPUREfrexを用いた全長IgG抗体の合成法開発”

  • DnaK mix: Mixture of cytoplasmic molecular chaperones from E. coli, which contains 5 µM DnaK, 1 µM DnaJ, 1 µM GrpE.
  • FkpA: Periplasmic peptidyl-prolyl cis-trans isomerase (PPIase) from E. coli, which has a chaperone-like function independent of PPIase activity.
  • Skp: Periplasmic protein from E. coli, which shows chaperone-like activity to β-barrel protein.

1-2.添加量を最適化

バクテリアの一種 Cytophaga hutchinsonii 由来II型ポリリン酸キナーゼ(PPK2)の C 末端に His タグを付けた鋳型 DNA を用いて、シャペロンが共存する状態でタンパク質の合成を行いました。その結果、DnaK Mix がない状態で合成すると、合成されたタンパク質のほとんどが不溶化してしまいましたが、DnaK Mix と共存させて合成すると可溶化率が高くなり、DnaK Mix の添加量を上げるとさらにその効果が高くなりました。反応条件などの詳細は、こちらのポスターをご覧ください。
”活性型タンパク質合成のための、再構成型無細胞タンパク質合成系(PUREfrex®)を用いたアプローチ”

1-3.タンパク質合成後に添加

ルシフェラーゼ(Photinus pyralis 由来)の鋳型 DNA を用いてタンパク質合成を行ったあとの反応液に、直接 DnaK Mix や ClpB を添加しました。シャペロンを添加しない場合と比べ、可溶化率は高くなり、DnaK Mix と ClpB の両方を混ぜると、可溶化したタンパク質量、活性ともに大幅に増加しました。反応条件などの詳細は、こちらのポスターをご覧ください。
”活性型タンパク質合成のための、再構成型無細胞タンパク質合成系(PUREfrex®)を用いたアプローチ”

2.GroE Mix(Hsp60)の効果

GroEL は大腸菌の Hsp60 で、一部の新生タンパク質の構造形成や、品質管理に必須であることが知られています。GroEL は14量体のダブルリング構造を持つ ATPase であり、7量体の GroES と協調して働きます。GroE Mix(#PF004)は、高度に精製した大腸菌由来の GroEL、GroES を適切な濃度比であらかじめ混合した溶液です。

GroE Mix を添加した PUREfrex®1.0 を使用して、4 種類の大腸菌タンパク質(FadA、HemB、PepQ、PyrC)*1 を合成し、合成産物の可溶性を測定しました。その結果、GroE Mix を添加せずに合成した場合は、4 種類とも、合成産物はすべて沈殿画分に回収されました。一方、GroE Mix を添加して合成した場合、ほとんどの合成産物が上清画分に回収されました。
*1)FadA, HemB, PepQ, PyrC 大腸菌内でのGroEの基質として報告されているタンパク質
(Ref; Fujiwara et al. (2010) EMBO J, 29, 1552-1564)

合成後の反応液(T)、沈殿画分(P)、上清画分(S)

3.まとめ

DnaK Mix は、大腸菌の細胞内に存在するシャペロンですが、大腸菌以外の生物種由来のタンパク質、あるいは細胞外に存在するタンパク質に対しても、試験管内で合成すると凝集してしまう問題を解決する効果があることがわかります。

シャペロンを選ぶ際に、DnaK Mix と GroE Mix のどちらがいいのか判断する明確な基準はなく、合成するタンパク質によって効果は異なりますが、はじめて試す場合は、経験的に、広く効果があるとわかっている DnaK Mix の方をおすすめします。

また、PURE system(PUREfrex® の基本技術)を用いて、大腸菌全遺伝子の約 7 割にあたる 3173 種類のタンパク質の凝集形成を網羅的に調べた結果が記載されている、東京工業大学科学技術創成研究院の田口英樹教授の総説「タンパク質フォールディングの「理想」と「現実」:凝集形成とシャペロンの役割」もおすすめです。

この総説では、凝集性タンパク質に種類の異なるシャペロンを添加し、DnaK や GroEL が効く傾向についても記載されていますので、ぜひ、参考にしてみてください。

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